東海村の原子力

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
原子力科学研究所

はじめに

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構は,原子力に関する我が国唯一の総合的研究開発機関として,人類社会の福祉及び国民生活の水準向上に資する原子力の研究,開発及び利用の促進に寄与することを目的としております。

原子力科学研究所(以下「研究所」という。)及びJ-PARCセンターにおいては,昨年10月に発生したFNS棟(核融合炉物理実験棟)における火災事象等を踏まえ,安全管理を徹底し,従業員一人ひとりのルール遵守の意識を向上させます。また,情報公開に努め地域との共生を図りつつ事業を推進します。

そのうえで,原子力の基礎基盤研究,安全研究,人材育成等に取り組むとともに,東京電力ホールディングス(株)福島第一原子力発電所(以下「東京電力福島第一原子力発電所)という。)の廃止措置に向けた研究開発を行っていきます。

研究炉及び核燃料物質使用施設については,原子力規制委員会が制定した新規制基準への対応を進めます。また,運転再開を果たした研究炉JRR-3については,供用運転を開始します。

さらに,施設中長期計画に基づき,「施設の集約化・重点化」,「施設の安全確保」及び「バックエンド対策」を計画的に進めます。

研究所における令和3年度の事業計画の主な内容は以下のとおりです。

 

1.事業計画概要

(1)安全確保の徹底

研究所及びJ-PARCセンターの事業の推進に当たって,安全確保を最重要課題として取り組むとともに,昨今の状況に鑑み核セキュリティの強化を推進します。また,昨年10月に発生したFNS棟消火栓ポンプ室における小規模な爆発事象の教訓を踏まえ,火災事故を起こさぬよう万全を期します。

具体的には,法令及びルールの遵守を徹底するとともに,保安活動を確実に,より良い仕組みとするために,核セキュリティ文化の醸成,CAP(是正措置プログラム)活動等を通した品質マネジメント(安全文化の育成及び維持を含む。)の継続的改善を進めます。また,施設の安全管理については,高経年化対策等を踏まえて点検方法等を見直し,強化した監督機能のもとトラブルの予防に努めます。トラブルが発生した場合において,迅速・的確な対応ができるよう,平常時から危機管理体制の改善に努めるとともに,緊急被ばく医療に係る地域医療機関や近隣の原子力事業者及び外部関係機関との連携についても,その重要性に鑑み,継続して取り組みます。

(2)東京電力福島第一原子力発電所の廃止措置等に向けた研究開発

国が定めた「東京電力ホールディングス(株)福島第一原子力発電所の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」の計画等に基づき,特殊環境下における腐食現象の解明,東京電力福島第一原子力発電所の原子炉内の状態を把握するための解析技術の開発や核分裂生成物核種の挙動解析,溶け落ちた燃料(燃料デブリ)の特性把握,臨界管理技術や核物質量の管理技術の開発並びに汚染水処理で発生するゼオライト廃材及び放射性廃棄物の処理・処分技術開発等,研究所の各施設を活用した試験研究を行います。

(3)原子力安全研究,核不拡散・核セキュリティに資する活動

多様な原子力施設の幅広い安全評価に必要な知見を整備するため,安全研究を実施し,原子力安全規制行政を技術的に支援します。具体的には,東京電力福島第一原子力発電所事故から得られた教訓等を踏まえて,軽水炉におけるシビアアクシデント回避及び影響緩和並びに原子力防災に関する研究を進めるとともに,事故時の燃料及び熱水力挙動の評価,軽水炉機器・構造物の健全性評価,核燃料サイクル施設のシビアアクシデント評価,放射性廃棄物管理に係る研究等を実施します。シビアアクシデントに関わるリスク評価研究においては,機構内及び関係機関との連携機能を強化してリスク情報の活用を推進します。国立大学法人東京大学に設置された「国立研究開発法人連携講座」による人材育成を行います。

国際的な核不拡散体制の強化に貢献するための保障措置技術開発や核鑑識,核物質等の測定・検知技術等の核セキュリティ強化に必要な技術開発を進めます。また,国際的なCOE(中核的研究拠点)を目指すとともに,包括的核実験禁止条約(CTBT)監視施設の運用等の他,核燃料物質の輸送や研究炉燃料の需給等の支援業務を実施します。さらに,核不拡散・核セキュリティの重要性や機構の活動等について積極的に情報発信を行い,国内外の理解増進に努めます。

(4)原子力基礎・基盤研究等

原子力研究開発の基盤を形成し,新たな原子力利用技術の創出に貢献するため,原子力基礎工学研究を実施するとともに,軽水炉の安全性の更なる向上や東京電力福島第一原子力発電所の廃止措置と環境修復のための研究を進めます。

具体的には,核工学・炉工学分野では,原子力施設の設計や廃止措置などに資する基盤技術として,測定・評価した核データを取りまとめデータベースとして公開します。さらに,産業界のニーズを踏まえた原子力施設の核的・熱的な特性を計算するコードシステムの開発を進めます。また,廃棄物中に含まれる核燃料物質等を非破壊で測定する技術の開発については,低コスト化のための原理実証試験を行います。燃料・材料分野では,加速器を用いた分離変換技術開発のための燃料製造に関する試験装置を整備するとともに,原子力材料の経年劣化挙動モデルを完成させます。化学分野では,放射性核種の化学挙動及び定量分析に関する基盤研究として,データ解析や化学状態の同定により環境中移行挙動解析のための固液反応機構モデルを構築するとともに,長寿命核種定量分析のための分析前処理法を確立します。環境科学分野では,放射性物質の大気中への放出・広がり及び沈着を詳細に計算するモデル・手法を完成させ,様々な放射性物質の放出事象に対する環境中分布・移行評価技術を確立します。放射線科学分野では,精緻な線量評価のための外部被ばく線量評価システムを完成させます。放射性廃棄物の減容化・有害度低減への貢献が期待できる加速器を用いた分離変換技術開発では,基盤データの取得・拡充を推進し,技術的成立性を確認します。

計算機を用いる計算科学技術研究では,過酷事故時の炉内複雑現象等のモデル開発のための基礎データの拡充とコンピュータシミュレーション技術の高度化を進めます。

(5)先端原子力科学研究

先端的な基礎研究として,将来の原子力科学の萌芽となる未踏の研究分野の開拓を進めるため,アクチノイド先端基礎科学及び原子力先端材料科学の両分野における研究を推進します。

(6)物質科学研究

大強度陽子加速器施設(J-PARC)や研究炉JRR-3等の中性子線利用施設・装置等の高度化に係わる技術開発及び装置整備を進めます。また,中性子線等を利用した幅広い研究を行い,科学技術・学術分野における革新的成果を創出します。さらに産学官との共同研究により,それらの産業利用に向けた成果活用に取り組みます。

(7)J-PARCの整備・共用

高出力の定常運転実現に向け,リニアック,3GeVシンクロトロン及び50GeVシンクロトロンについて,粒子損失の低い運転方法の開発,機器の改良,電源設備の整備等を進めます。

物質・生命科学実験施設では,1MW出力の定常化に向けてターゲット容器及び関連する機器の改良を進めるとともに,90%以上の稼働率達成を目指します。安定した陽子ビームによる7.2サイクル(約159日間)の中性子利用及びミュオン利用実験を実施します。また,新種のニュートリノ(ステライルニュートリノ)を探索する実験を行います。さらに,ミュオンビームラインの整備を継続して進めます。

ハドロン実験施設では,安全強化された環境で,質量の起源解明や,宇宙創生期の謎に迫る核力の理解を目指します。

ニュートリノ実験施設では,前年度に引き続きニュートリノをスーパーカミオカンデに向けて出射し,粒子-反粒子(CP)対称性の破れの検証実験等を進めます。ハイパーカミオカンデ計画に係る機器の整備等を継続します。

ユーザーに対する利用支援体制の更なる充実と利用促進を強化するため,試料の前処理や後処理を行う装置群の整備や,専用のデータ解析を行う計算機環境の整備を進めます。また,放射化したターゲット容器をRAM棟(放射化物保管設備を有する建家)に移送し,安全に保管管理します。

J-PARCセンター全体として,増大する外来利用者を含めた包括的な安全確保のため,マニュアルや規程類の見直し,遵守確認,安全講習等による安全文化育成を継続的に進めます。

(8)原子力人材の育成

国内及びアジア諸国等を対象とした原子力人材育成研修事業を継続するとともに,東京大学専門職大学院への協力,茨城大学との包括協定に基づく協力,その他の大学院等における原子力教育への協力を推進します。

また,「原子力人材育成ネットワーク」の事務局として,我が国の原子力人材育成推進を継続します。

(9)大型研究施設の運転及び関連する技術開発

研究炉JRR-3はイノベーション創出の場としてユーザーが利用する供用運転を開始します。中性子ビーム利用としては,中性子散乱実験等を行い,磁気・電子素材の構造解析による記憶素子等の開発やタンパク質の構造解析による創薬開発等に貢献します。また,照射利用としては医療用ラジオアイソトープの製造によりがん治療等に貢献します。

研究炉NSRRについては,軽水炉燃料の反応度事故時やシビアアクシデント時の燃料挙動研究のため,パルス照射試験を安全に実施します。

定常臨界実験装置(STACY)については,東京電力福島第一原子力発電所の炉心溶融で生じた燃料デブリの取り出し作業時における臨界管理に関する安全研究を行うため,改造に向けた新規制基準に基づく「設計及び工事の計画の認可」対応及び施設整備を進めます。

タンデム加速器,バックエンド研究施設(BECKY),燃料試験施設(RFEF),廃棄物安全試験施設(WASTEF)については,東京電力福島第一原子力発電所の環境修復や廃止措置に係る技術開発,原子炉燃料・材料の安全評価,核燃料サイクルや放射性廃棄物に関する安全研究,基礎・基盤研究等に資するため,安全・安定運転を行うとともに,利用技術の開発を進めます。

放射線管理計測技術の開発では,事故発生時の被ばく線量の迅速な測定手法等の開発に関する成果を取りまとめます。

高速炉臨界実験装置(FCA)については,廃止措置計画の認可取得に向け,審査に対応します。

(10)施設等の廃止措置,放射性廃棄物の処理・処分及び関連する技術開発

過渡臨界実験装置(TRACY),研究炉JRR-4及び軽水臨界実験装置(TCA)については,認可取得した廃止措置計画に基づき対応を進めます。

原子力施設の設置者及び放射性廃棄物の発生者としての責任において,安全確保を大前提に,所期の目的を達成した原子力施設の廃止措置及び低レベル放射性廃棄物の処理を適切に進めます。また,合理的な廃止措置や処理・処分に必要な技術開発を行います。

高減容処理施設においては,放射性廃棄物の前処理及び高圧圧縮処理による廃棄物の減容を進めます。

平成30年10月17日に新規制基準への適合性確認に係る原子炉設置変更許可を取得した放射性廃棄物処理場については,新規制基準に基づく「設計及び工事の計画の認可」対応,津波対策工事及び建家の耐震補強工事等を実施し,早期の適合性確認を目指します。また,保管廃棄施設・L(半地下ピット式保管廃棄施設)では,ドラム缶の健全性確認を進めます。

さらに,日本アイソトープ協会から受託して保管している廃棄物について,平成25年度から開始した同協会への返却を継続します。

2.安全協定第5条に係る新増設等計画

(1)J-PARC(ビームラインの新設及び変更等)

(概要)

物質・生命科学実験施設において,年度途中で予算措置が可能となった場合には,ミュオンビームを加速する機器を設置するための建屋の増設(ミュオンビームラインHラインの延長),ミュオンビームラインSラインの延長を行います。

ハドロン実験施設において,年度途中で予算措置が可能となった場合には,ミューオン電子転換事象探索(COMET)実験のためのビームラインの整備,テストビームライン及び実験エリアの新設を行います。

ニュートリノ実験施設において, 年度途中で予算措置が可能となった場合には,50GeVシンクロトロンからのビーム増強に対応する遮蔽体等の増強を行います。さらに,年度途中で予算措置が可能となった場合には,加速器機器等の整備・試験を行うための実験準備棟の新設を行います。

(2)放射性廃棄物処理場における廃棄物管理事業許可取得

(概要)

原子力科学研究所の放射性廃棄物処理場においては,現在,「核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」及び「放射性同位元素等の規制に関する法律」による複数の許可区分に基づく放射性廃棄物を取り扱っております。

これらを一つの許可区分で一元管理することにより,許可区分の異なる放射性廃棄物の混在が可能となり,処理及び保管廃棄に係るプロセスの合理化を図ることができます。これにより,廃棄体化を進めるに当たり,安全かつ合理的な廃棄物管理が可能となることから,廃棄物管理事業の許可申請を検討しています。