東海村の原子力

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
原子力科学研究所

はじめに

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構は,原子力に関する我が国唯一の総合的研究開発機関として,人類社会の福祉及び国民生活の水準向上に資する原子力の研究,開発及び利用の促進に寄与することを目的としております。なお,新型コロナウイルス感染症については,政府や地方自治体の要請等を注視しつつ,引き続き迅速かつ適切な対策を講じてまいります。

原子力科学研究所(以下「研究所」という。)及びJ-PARCセンターにおいては,安全管理を徹底し,従業員一人ひとりのルール遵守の意識を向上させるとともに,過去の教訓を風化させないための教育に取り組みます。また,情報公開に努め地域との共生を図りつつ事業を推進します。

そのうえで,原子力の基礎基盤研究,安全研究,人材育成等に取り組むとともに,東京電力ホールディングス(株)福島第一原子力発電所(以下「東京電力福島第一原子力発電所」という。)の廃止措置に向けた研究開発を行っていきます。

また,軽水炉の更なる安全性の向上や利用率向上等に寄与できる研究開発や,中性子ビームや放射光を利用した原子力科学,物質・材料科学等を進め,カーボンニュートラル等の社会的課題解決に貢献します。

研究用原子炉JRR-3については,安全・安定運転を行い,利用ユーザーにイノベーション創出の場を提供します。また,原子炉施設について,原子力規制委員会が制定した新規制基準への対応を進めます。定常臨界実験装置(STACY)については,令和6年5月の運転再開を目指し,新規制基準に基づく更新工事を継続します。

さらに,施設中長期計画に基づき,「施設の集約化・重点化」,「施設の安全確保」及び「バックエンド対策」を計画的に進めます。

研究所における令和5年度の事業計画の主な内容は以下のとおりです。

 

1.事業計画概要

(1)安全確保の徹底

研究所及びJ-PARCセンターの事業の推進に当たって,安全確保を最重要課題として取り組むとともに,昨今の状況に鑑み核セキュリティの強化を推進します。また,過去の教訓を活かして安全確保に取り組みます。

具体的には,法令及びルールの遵守を徹底するとともに,保安活動を確実に,より良い仕組みとするために,核セキュリティ文化の醸成,CAP(是正措置プログラム)活動等を通した品質マネジメント(安全文化の育成及び維持を含む。)の継続的改善を進めます。また,施設の安全管理については,高経年化対策等を踏まえて点検方法等を見直し,強化した監督機能のもとトラブルの予防に努めます。さらに,過去の事故事例を風化させないための教育を継続します。トラブルが発生した場合において,迅速・的確な対応ができるよう,平常時から危機管理体制の改善に努めるとともに,緊急被ばく医療に係る地域医療機関や近隣の原子力事業者及び外部関係機関との連携についても,その重要性に鑑み,継続して取り組みます。

(2)原子力基礎基盤研究

原子力研究開発の基盤を形成し,新たな原子力利用技術の創出に貢献するため,原子力基礎工学研究を実施します。

具体的には,核特性,熱流動,燃料・材料,環境動態,放射線輸送・計測等について,マルチフィジックスシミュレーション技術の開発を進めます。あわせて,実験的な基礎データの拡充のためのスマート測定技術及び分析技術の開発並びに計算モデルの妥当性検証を進めます。これらの基礎基盤研究の成果を活用して,軽水炉システムの安全性向上,分離変換技術による放射性廃棄物の減容化・有害度低減,東京電力福島第一原子力発電所事故の中長期的課題への対応等に貢献します。また,得られた成果を最大限に活用するために,産業界や大学といった異分野との連携を進め,原子力イノベーションの創出を目指します。

(3)先端原子力科学研究

先端原子力科学分野について,新原理・新現象の発見,新物質・新材料の創製,革新的技術の創出等を目指すため,原子力先端材料科学及び原子力先端核科学の両分野における研究を推進します。

(4)物質科学研究

研究用原子炉JRR-3やJ-PARC等の中性子線利用施設・装置等の高度化に係わる技術開発及び装置整備を進めます。また,中性子線等を利用した幅広い研究を行い,科学技術・学術分野における革新的成果を創出します。さらに産学官との共同研究により,それらの産業利用に向けた成果活用に取り組みます。

(5)原子力計算科学研究

原子力を始めとする科学技術の発展に不可欠な研究開発基盤である最先端スーパーコンピュータを利用し,複雑な現象を精確に再現可能とするシミュレーション技術を開発するとともに,スーパーコンピュータの有効活用やシミュレーション結果の迅速な把握を可能とするため,高性能計算技術や可視化技術の研究開発を進めます。また,実験や観測結果をシミュレーションに効果的に反映するデータ同化技術や,それらのデータから有効な情報抽出を可能とする機械学習技術の研究開発も進めます。

(6)J-PARCの整備・共用

高出力の定常運転実現に向け,リニアック,3GeVシンクロトロン及び50GeVシンクロトロンについて粒子損失の低い運転方法の開発,増強した電源を用いた性能試験,機器の改良等を進めます。

物質・生命科学実験施設では1MW出力の定常化に向けてターゲット容器及び関連する機器の改良を進めるとともに,90%以上の稼働率達成を目指します。安定した陽子ビームにより年度前半に約60日間の中性子利用及びミュオン利用実験を実施するとともに,利用者ニーズに対応するため通年で約159日間(7.2サイクル)の利用時間の提供を目指します。また,新種のニュートリノ(ステライルニュートリノ)を探索する実験を行います。さらに,ミュオンビームラインの整備を継続して進めます。

ハドロン実験施設では,安全強化された環境で質量の起源解明や宇宙創生期の謎に迫る核力の理解を目指します。ミューオン電子転換事象探索(COMET)実験のためのビームラインの調整も進めます。

ニュートリノ実験施設では,前年度に引き続きニュートリノをスーパーカミオカンデに向けて出射し粒子-反粒子(CP)対称性の破れの検証実験等を進めます。ハイパーカミオカンデ計画に係る機器の整備等を継続するとともに,ビームの増強とそれに伴う機器等の増強を進めます。

ユーザーに対する利用支援体制の更なる充実と利用促進を強化するため,試料の前処理や後処理を行う装置群の整備や,専用のデータ解析を行う計算機環境の整備を進めます。また,放射化したターゲット容器をRAM棟(放射化物保管設備を有する建家)に移送し安全に保管管理します。

J-PARCセンター全体として,増大する外来利用者を含めた包括的な安全確保のため,マニュアルや規程類の見直し,遵守確認,安全講習等による安全文化育成を継続的に進めます。

(7)大型研究施設の運転及び関連する技術開発

研究用原子炉JRR-3は安全・安定運転を行い,利用ユーザーにイノベーション創出の場を提供します。中性子ビーム利用としては,中性子散乱実験等を行い,磁気・電子素材の構造解析による記憶素子等の開発やタンパク質の構造解析による創薬開発等に貢献します。また,照射利用としては医療用ラジオアイソトープの製造によりがん治療等に貢献するとともに,核医学検査薬(テクネチウム製剤)の原料となるモリブデン99の安定した国内供給体制の強化を目指して照射製造技術開発を推進します。

研究用原子炉NSRRについては,軽水炉燃料の反応度事故時やシビアアクシデント時の燃料挙動研究のため,パルス照射試験を安全に実施します。

定常臨界実験装置(STACY)については,東京電力福島第一原子力発電所の炉心溶融で生じた燃料デブリの取り出し作業時における臨界管理に関する安全研究を行うため,令和6年5月の運転再開を目指し,新規制基準に基づく更新工事を継続します。

タンデム加速器,バックエンド研究施設(BECKY),燃料試験施設(RFEF),廃棄物安全試験施設(WASTEF)については,東京電力福島第一原子力発電所の環境修復や廃止措置に係る技術開発,原子炉燃料・材料の安全評価,核燃料サイクルや放射性廃棄物に関する安全研究,基礎・基盤研究等に資するため,安全・安定運転を行うとともに,利用技術の開発を進めます。

放射線管理計測技術の開発では,放射線標準施設棟(FRS)において,種々の放射線測定器の信頼性向上等に取り組みます。

(8)原子力人材の育成

国内及びアジア諸国等を対象とした原子力人材育成研修事業を継続するとともに,東京大学専門職大学院への協力,茨城大学との包括協定に基づく協力,その他の大学院等における原子力教育への協力を推進します。

また,「原子力人材育成ネットワーク」の事務局として,我が国の原子力人材育成推進を継続します。

(9)核不拡散・核セキュリティに資する活動

国際的な核不拡散体制の強化に貢献するための保障措置技術開発や核鑑識,核物質等の測定・検知技術等の核セキュリティ強化に必要な技術開発を進めます。また,核不拡散・核セキュリティ強化に資するため,アジア諸国を始めとする各国を対象とした人材育成支援を実施します。さらに,国際的なCOE(中核的研究拠点)を目指すとともに,包括的核実験禁止条約(CTBT)国際監視制度施設等の運用等の他,核燃料物質の輸送や研究炉燃料の需給等の支援業務を実施します。加えて,核不拡散・核セキュリティの重要性や機構の活動等について積極的に情報発信を行い,国内外の理解増進に努めます。

(10)東京電力福島第一原子力発電所の廃止措置等に向けた研究開発

国が定めた「東京電力ホールディングス(株)福島第一原子力発電所の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」の計画等に基づき,燃料デブリの遠隔・その場・迅速簡易分析の開発,特殊環境下における腐食現象の解明,東京電力福島第一原子力発電所の原子炉内の状態を把握するための解析技術の開発や核分裂生成物核種の挙動解析,燃料デブリの特性把握,臨界管理技術や核物質量の管理技術の開発並びに汚染水処理で発生するゼオライト廃材及び放射性廃棄物の処理・処分技術開発等,研究所の各施設を活用した試験研究を行います。

(11)施設等の廃止措置,放射性廃棄物の処理・処分及び関連する技術開発

過渡臨界実験装置(TRACY),研究用原子炉JRR-4,軽水臨界実験装置(TCA)及び高速炉臨界実験装置(FCA)については,認可取得した廃止措置計画に基づき対応を進めます。

原子力施設の設置者及び放射性廃棄物の発生者としての責任において,安全確保を大前提に,所期の目的を達成した原子力施設の廃止措置及び低レベル放射性廃棄物の処理を適切に進めます。また,合理的な廃止措置や処理・処分に必要な技術開発を行います。

高減容処理施設においては,放射性廃棄物の前処理及び高圧圧縮処理による廃棄物の減容を進めます。

放射性廃棄物処理場については,新規制基準に基づく「設計及び工事の計画の認可」対応を実施し,早期の適合性確認を目指します。また,保管廃棄施設・L(半地下ピット式保管廃棄施設)では,ドラム缶の健全性確認の完了を目指します。

さらに,日本アイソトープ協会から受託して保管している廃棄物について,平成25年度から開始した同協会への返却を継続します。

(12)原子力安全研究

多様な原子力施設の幅広い安全評価に必要な知見を整備するため,安全研究を実施し,原子力安全規制行政を技術的に支援します。具体的には,東京電力福島第一原子力発電所事故から得られた教訓等を踏まえて,軽水炉におけるシビアアクシデント回避及び影響緩和並びに原子力防災に関する研究を進めるとともに,事故時の燃料及び熱水力挙動の評価,軽水炉機器・構造物の健全性評価,核燃料サイクル施設のシビアアクシデント評価,放射性廃棄物管理に係る研究等を実施します。シビアアクシデントに関わるリスク評価研究においては,機構内及び関係機関との連携機能を強化してリスク情報の活用を推進します。国立大学法人東京大学に設置された「国立研究開発法人連携講座」による人材育成を行います。

2.安全協定第5条に係る新増設等計画

原子力施設周辺の安全確保及び環境保全に関する協定書第5条に該当する新増設等の計画は予定しておりません。