学芸員だより(第5号)ちょっと変わった植物~テンナンショウ属(サトイモ科)の仲間~
ちょっと変わった植物~テンナンショウ属(サトイモ科)の仲間~
2025年5月9日
東海村は海岸、河川、ため池、常緑樹林、落葉樹林など変化に富んだ自然環境に恵まれ、身近に生物多様性を学べる地域(東海村 2014)です。
東海村ではこれまでの植物調査により1000種類以上の高等植物(シダ植物、種子植物)が確認されています(東海村の自然調査会 2018)。
これらの多くの植物の中でテンナンショウ属Arisaemaは、一風変わった花をつけることで知られており(写真)、この仲間について紹介します。

ミミガタテンナンショウ
石神外宿 2025年4月24日
この属は熱帯や温帯に見られ、東アジア、東南アジア、インド南西部、アメリカ合衆国東部、メキシコ、アフリカ東部などに分布し、約200種類(Guy and Liliane Gusman 2002)が知られています。
日本列島のテンナンショウ属は昭和はじめにはすでに多くの種類が記録されており、訂正増補日本植物総覧(牧野・根本1931)では30種類以上が記載されています。その後、全国各地から新しい種類の発見が相次ぎました。
最近の研究では国内で50種類以上が知られています(邑田仁・大野順一・小林禧樹・東馬哲雄 2015,2018)。
この属は花や葉の変化が多様で、最も分類の難しいグループで、今でも全国各地で新種が報告されています。
花の各部は外側の白や緑から紫色の仏炎苞(ぶつえんほう)、花序の先端の細長く伸びた附属体(ふぞくたい)、内部の肉穂花序(にくすいかじょ)などの特別な名称がついています。仏炎苞を取り除くとその中には小さい花が密集しているのがわかります。各花にはがくや花弁はなく、雄の穂には雄しべだけ、メスの穂には雌しべだけがつき、まるでトウモロコシの実のようです。
今回は東海村で見られるウラシマソウ、ムサシアブミ、ミミガタテンナンショウの3種類を写真とともに比較してみました。

仏炎苞を取り除いてみると...


ウラシマソウ(浦島草)は、細長い付属体を浦島太郎の釣り糸にたとえています。 村内の竹林などに群生しています。道沿いや竹林に群生する。花期は4~5月。長く伸びた附属体が特徴。村内各所に見られます。特に竹林の群生地は目立ちます。
ミミガタテンナンショウ(耳形天南星)の耳形は仏炎苞の一部が耳たぶのように大きく張り出しているという意味です。天南星の由来は中国で夜空に広がる星のことで葉が広がる形に由来するという説があります。落葉樹林下に観られ、花期は4月。葉が展開する前に開花するので、他の種類と簡単に区別できます。村内では石神内宿など数カ所で確認していますが、本来は山地性のもので東海村のように低地に生育することは珍しいことです。

ムサシアブミを逆さまにすると...
野草の名前 春 和名の由来と見分け方(高橋 2018) p.235より
ムサシアブミ(武蔵鐙)の名前はこの仏炎苞を逆さまに見ると、馬具の鐙(あぶみ)に似ていて、武蔵の国でこの鐙をつくっていたことによります。湿った林内に見られ、花期は4~5月。大きな3枚の葉が特徴。
これまで、村松の生育地は茨城県唯一の産地で、茨城県レッドデータブック(茨城県2013)では絶滅危惧1.B類に指定されています。
ところが最近の研究(邑田 2018)で、本来の分布は西日本であることがわかってきました。従って、東海村の生育地は人為的に持ち込まれたものではないかと推定されています。近年、村内のスギ林でも数カ所で確認されていますが村松のムサシアブミの種子が広がったのかも知れません。
このように花を分解すると植物の秘密の世界を発見できることもあります。
村内にはまだ知られていない植物があります。人家付近、あぜ道、水辺、雑木林などで見慣れない植物に気づいた場合は、歴史との未来の交流館に情報をお寄せください。
(博物館長 安嶋 隆)
文献
- Guy and Liliane Gusman(2002) "The genus Arisaema" A.R.G.Gantner Verlag K.G.
- 茨城県生活環境部環境政策課(2013)『茨城における絶滅のおそれのある野生生物 2012年改訂版(茨城県版レッドデータブック)』茨城県生活環境部環境政策課
- 牧野富太郎・根本完爾(1931)『訂正増補日本植物総覧』春陽堂
- 邑田仁・大野順一・小林禧樹・東馬哲雄(2018)『日本産テンナンショウ属図鑑』北隆館
- 大橋広好・門田裕一・木原浩・邑田仁・米倉浩司(2015)『日本の野生植物1』平凡社
- 高橋勝雄(2018)『野草の名前 春 和名の由来と見分け方』ヤマケイ文庫
- 東海村(2014)『東海村生物多様性地域戦略』東海村
- 東海村の自然調査会(2018)『東海村の自然誌2』東海村教育委員会
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更新日:2025年05月09日