学芸員だより(第3号)歌人 猿田彦太郎-むらをうつす-

更新日:2025年03月13日

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歌人 猿田彦太郎 -むらをうつす-

2025年3月13日

  2025年1月26日まで、企画展「塙南可・千里展-むらをうつす-」を開催しました。東海村には、塙千里の弟子にあたる歌人が数多くいます。

  その中の1人に、猿田彦太郎さんがいます。5冊の著書を持つほど、たくさんの短歌作品を生み出しました。作品の中には、東海村の歴史や自然環境を伝え、私たちのこころと耳に残る歌が数多くあります。いくつか紹介したいと思います。

  

  • ふりつづく雨に濁れるこの川に波ひきたてて鮭のぼりくる
  • 動くともなき鮭をりて川砂の色にまぎれてしばしば見えず

  久慈川における鮭の遡上は、近年みられなくなってしまいましたが、この作品がつくられた昭和60年(1985)には、上記2首のような光景が広がっていたことがわかります。

  1首目は、濁るほど流量が増えはげしい流れの久慈川を鮭がたくましく上っていく様子が見事に表現されています。また、「波ひきたてて」の表現に、猿田彦太郎さんが師と慕った斎藤茂吉の影響()が垣間見えます。

  2首目は、久慈川の鮭を観察し写生したものです。川の水が澄んでいることがわかるほか、鮭の保護色に人も騙され「しばしば見え」ませんでした。

 

  • 外温の三度に下がる自動車にその度エンジン掛けて居眠る

  東日本大震災によって、自宅で過ごすことが不安であった作者は自家用車で寝泊まりをしていました。3月に起こった地震のため、とても寒い日がつづきました。私たちは、様々な災害の姿を映像や写真で見ることが出来ますが、この短歌のようなとても生活的で、ありふれた光景や感情は残りにくいものです。猿田彦太郎さんの東日本大震災に関する短歌は数多く、さらに短歌雑誌には随筆も投稿されました。このエッセイでは、寒さでなかなか寝付けないことや電気の点かないなかで「長い長い夜」が明けても顔を洗う水がないことに、水の大切さを知ったことなどが書かれています。また、歌人として困難さだけでなく、次のような感動があったといいます。

 

“街全体が暗闇のため全天の星の輝きが増して綺麗に見えることに感動を覚える” 

 

  日々の生活のなかで、見落としがちな光景や感情、感動を文にして表現する芸術家、“歌人”。短歌の鑑賞をしてみませんか。

(髙増 慧)

 

斎藤茂吉・最上川逆白波のたつまでにふぶくゆふべとなりにけるかも『白き山』)

 

参考文献

  • 猿田彦太郎「東日本大震災」(http://hodou.deci.jp/8shinnsai/shinnsai201112.htm)
  • 猿田彦太郎『歌集 東海』(短歌新聞社、2008年)
  • 猿田彦太郎『鎮魂抄』(角川文化振興財団、2019年)
  • 『斎藤茂吉選集 第7巻 (歌集 7)』(岩波書店、1982年)
  • 東海村の自然調査会『東海村の自然誌』(東海村教育委員会、2007年)

 

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